倫理研究所

活動報告
2020.5.1

第24回「しきなみ賞・しきなみ新人賞」入選速報

第24回「しきなみ賞・しきなみ新人賞」には、しきなみ賞355名、しきなみ新人賞157名、合計512名の応募がありました。しきなみ選者による予選を経て、4月に開催された最終選考会において、「しきなみ賞」は「最優秀賞」(2名)、「優秀賞」(2名)、「佳作」(14名)、「しきなみ新人賞」は「最優秀賞」(1名)、「優秀賞」(3名)、「佳作」(14名)の入賞作品が決定いたしました。

 

 

「しきなみ賞・しきなみ新人賞」とは・・・

しきなみ短歌会員を対象とし、「しきなみ賞」「しきなみ新人賞」の2部門からなる賞。 作歌の練磨・研鑽に努力している会員に対して、評価の機会を提供することにより個々の会員の作歌力の向上に資するとともに、若い才能の発掘・育成を目的としています。

 

 


 

しきなみ賞

 

◆◆◆ 最優秀賞 2名 ◆◆◆

 

「孫の革命」
石渡貫一郎(千葉・郡本・群蛍集)

長かりし登校拒否の闇を抜け高校めざすと孫の革命

マイナスとマイナス掛けてなぜプラス孫の素朴な問ひにたぢろぐ

英単語ひたすら読みゐる孫の声おほつごもりの夜に澄みわたる

時来たり試験に臨める孫に向け心いつぱいパワーを送る

発表日あつたよあつたと駆け寄りし孫にダイヤの笑みこぼれをり

 

「すなおな吾子よ」
矢野房代(大分・岩屋・白光集)

ほとんどのことば話せぬ吾子なれば工夫こらしてコミュニケーション

作業所に日々をまじめに通う吾子帰宅後はまず炭酸飲料

物投げて何か伝うる吾子の面母親なれどわからぬ辛さ

高らかに声出し笑う吾子の面心身共に安らかな証し

何ひとつあらがうこともなく生きてうらおもてなきすなおな吾子よ

 

 

 ◆◆◆ 優秀賞 2名 ◆◆◆

 

「その先」
大山育(愛知・吉田・群蛍集)

ホスピスの庭にとどまる空蝉に生きるの先を教えられおり

母の吐く最後の息と引き換えに静寂充ちるホスピスの部屋

母逝きて流す涙にこれまでとこれから先を清められおり

時満ちて皆に囲まれ逝く母の力に星の終わり重ねる

安産とう始まりあれば逝く母にいかな言葉がふさわしきかな

 

「小一担任の思い出」
古川幸子(熊本・平井・群蛍集)

息切らし駆け込みて来る一年生窓開けて待つ朝の教室

名を呼べば「ハイ元気デス」と一年生声の弾ける健康観察

「勉強はおもしろくない」と本を閉じ床に寝そべる一年生あり

おもらしでべそかく幼「先生もそんなだったよ」と肩を抱き締む

鬼に追われ駆け廻りたる一年生昼休みはしゃぐそのすばしこさ

 

 

◆◆◆ 佳作 14名 ◆◆◆

・車のみ被害の我が詠むべきかと今日まではばかる震災の歌

/佐藤克代(岩手・宮古・飛雲集)

・資格とり静脈注射の十年余吾は息子の専属看護士

/阿部ムツ子(新潟・表町・飛雲集)

・木守りの熟柿のごとく母老いる守るつもりが守られており

/服部千春(埼玉・針ヶ谷・飛雲集)

・「明日も来てぇ待っているよ」と病める子は毛布をかぶり片手バイバイ

/髙橋千代(埼玉・蓮田黒浜・真砂集)

・ゆるゆると湯船につかる寒き夜「大丈夫か」と亡夫の声する

/町田町子(埼玉・戸塚・群蛍集)

・大銀杏(おおいちょう)凛と見おろす熊本城復旧進む足場の中で

/加藤藤光(神奈川・青葉区・飛雲集)

・粗相した姑の尿(ゆばり)を始末する口さえ利かぬ若き日遥か

/中根礼子(愛知・安城・群蛍集)

・モンローのくむ足のごとみごとなり我の傑作白き大根

/森脇幸代(京都・石原・真砂集)

・あまたなるお見合い重ねやっと今笑顔あふるる君が目の前

/原中正人(兵庫・平荘・真砂集)

・耳元で「大好き」と言いくれし母別れの近き師走の朝(あした)

/東納多美子(大分・鶴居・群蛍集)

・折々に妻のいいとこ百さがし八十五からとんとすすまぬ

/朝見進(大分・亀川・飛雲集)

・母が逝き十二時間後に父も逝き一緒に写る笑顔の遺影

/島袋眞砂美(鹿児島・龍郷・真砂集)

・荒海に帆を上げ叫(おら)びし父の声病み伏す吾を奮い起たしむ

/大島安徳(鹿児島・龍郷・白光集)

・母の愚痴途中でイラつき受話器置く「やってしまった」幾度悔いたか

/上原久美江(沖縄・泡瀬・真砂集)

 


 

しきなみ新人賞

 

◆◆◆ 最優秀賞 1名 ◆◆◆

 

「妻の言葉」
丸小拓将(北海道・札幌東・青泉集)

なくし物見事に見つかり驚いた「あなたの行動わかるんで」と妻

幻聴に襲われる我を抱きながら「大丈夫だから」とただ妻は言う

「ウーウー」と唸り声出す横で妻「うんうん」と返すなぜか安堵す

「薬を」と頼めばすぐに「ハイ」と吾(あ)の布団へ運ぶ妻に感謝す

吾(あ)の作る短歌をちらと妻に見せ「ふふふ」と笑う姿いとおし

 

 

◆◆◆ 優秀賞 3名 ◆◆◆

 

「夫婦」
石黒文夫(宮城・仙南法人・青泉集)

小雨降る宇治川沿いの遊歩道少し照れつつ妻の手を取る

大和路の若草山に鹿遊び新婚旅行の彼の日に戻る

孫の世話夫婦で競い我先に点数かせぐを二人で笑う

木洩れ日の水辺に花咲く九輪草に寄り添い重ねた年月を見る

待望の妻の退院嬉しいが早速小言に我が家の復活

 

「父の戒め」
矢口みどり(長野・池田・青泉集)

うつし絵に吾を抱く父の笑みの奥片手の日々の憂いのあるや

雑巾を蛇口に掛けて捻る父片手の流儀に日々余念無し

寒中に日々の洗濯片手にて母病みし日を父はいたわる

片手でも時をかければできるとう父の戒め間々浮かび来る

棺にも義手は入れまい片手にて悔い無き生涯父は遂げしぞ

 

「姉の一生」
中尾宣子(長崎・川棚・青泉集)

幾年も授からぬ子に悩み果て姉はわたしに思いを告げる

吾の腹の子を「くれまいか」と涙する姉にわたしは「ごめん」と項垂る

縁ありて乳呑み子いただき親となりミルクおむつと嬉嬉とす姉は

生さぬ子を慈しみ育て五十年姉は甥子に介護され笑む

号泣の甥子に頬を撫でられて八十七歳の姉は旅立つ

 

 

◆◆◆ 佳作 14名 ◆◆◆

・夜泣きして母を求めてすがる子の隣で待ってるおれもいるのに

/黒田晋平(宮城・宮城法人・青泉集)

・夫なきあと受験生同士の吾子とわれ互いに励ます夜半の学びに

/和田晃子(宮城・石巻・青泉集)

・欠点も短所もくせもあるけれど妻は全力こんな自分に

/田中義夫(埼玉・伊奈・青泉集)

・肩先の薄くなりゆく母の乗る車椅子押す軽さ胸突く

/矢作ゆかり(埼玉・領家・青泉集)

・ランドセルによろけし娘が心配で集団登校の後ろを追いぬ

/吉元正恵(東京・三軒茶屋・青泉集)

・絵手紙を壁一面に貼りし母日々ながめると聞くは嬉しや

/河合晶子(神奈川・南足柄・青泉集)

・がんばれよ試験の朝に呟いた普段は見せぬ父の優しさ

/小林樹(静岡・富士宮・つばさ)

・「うれしいね」一歳吾子のお祝いに微笑む母よ余命を超えて

/横山梓(愛知・吉田・青泉集)

・桜咲き夏の花火も紅葉も夫の亡きあと色あせて見ゆ

/前田みゆき(兵庫・芦屋北・青泉集)

・階段をようやく上ると目の前にチラシ不要の無情な貼紙

/日髙健二郎(福岡・香椎・青泉集)

・あさひ射し真白き大根輝いてせっせと夫は漬物にする

/山上晃子(熊本・瓦屋・青泉集)

・寒い朝入院の母訪ねると早く入れとふとんを開ける

/山口美代子(熊本・瓦屋・青泉集)

・亡き兄に好きな焼酎を指先で口に含ます別れの盃

/山下スナ子(宮崎・志比田・青泉集)

・空仰ぎ亡き孫の名を呼びかける雲の間に光るシルエット

/仲本愛子(沖縄・城東・青泉集)

 

 

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