倫理研究所

倫理研究フォーラム

純粋倫理の研究ならびに
倫理文化に関する
専門研究の成果を
広く公開・発信するために、
毎年「倫理研究フォーラム」を開催し、
発表しています。
同フォーラムでは、研究発表に続いて
研究者によるパネルトークを行ない、
発表内容について考察しながら、
分りやすく解説しています。

「倫理研究フォーラム in 愛知・鹿児島」
を開催しました

主催:
一般社団法人倫理研究所

 倫理研究フォーラム(テーマ:学びのカタチ―気づきで変わるあなたの未来)を愛知、鹿児島の2か所で開催しました。日時、会場、来場者数はそれぞれ、2026年2月1日(日)ウィルあいち(352名)、2026年4月26日(日)SSプラザせんだい(304名)。

 はじめに、倫理文化研究センターの内田智士次長が登壇し、本フォーラムの趣旨とテーマの背景について説明しました。内田次長は、私たちは自分が見ているものを当然と思い込みがちであり、別の見方に気づくことで世界の捉え方が変わると述べました。近年話題になったアニメ「チ。―地球の運動について―」にも触れ、天動説から地動説への転換のように、見方そのものが大きく変わる「コペルニクス的転回」という言葉を紹介、丸山敏雄著の『実験倫理学大系』で道徳と幸福の関係をめぐって同じ言葉を用いていたことを示しました。そして、気づきによる変化は人類全体だけでなく、個人の人生にも起こりうると指摘し、「自分の見方がこれまでとは反対だったと気づくことも、学びの大切な一部である」と述べ、第一部の研究発表へとつなげました。

REPORT

PART:01
倫理文化研究センター 内田智士専門研究員
 
 

 第一部では、丸山貴彦主事、松本亜紀専門研究員がそれぞれ研究発表を行いました。丸山主事の発表テーマは「体の力みを捨ててこそ気づきもあれ」。発表では、武道家としての自身の経験や「環世界」という生物学的な概念を軸に、「学び」の本質が多角的に掘り下げられました。まず、既存の「教育」や「学習」の枠を超えた、生きることそのものとしての「学び」を、自らが変わる「変容」として捉えました。その上で、ユクスキュルが提唱した「環世界」の概念を引き合いに出し、生物はそれぞれの感覚器を通じて主観的な世界を構築しており、人間もまた「自らの関心があるものしか見ていない」という「欲望関心相関性」の中に生きていることを示しました。さらに、学びを深め「気づき」の感度を高めるためには、自身の関心を再確認し、師となる存在から新たな見方を学ぶとともに、身体の「力み」を取ることで、凝り固まった考え方やものの見方を緩めていくことが重要であると提起しました。理論的な考察に留まらず、後半には会場全体で体をほぐす実技も行われ、身体感覚から学びのあり方を捉え直す発表となりました。

 続いて松本亜紀専門研究員が登壇し、「知識が知恵に変わるとき―実践知としての学び―」と題して発表を行いました。発表では、単なる知識の蓄積ではなく、人がいつ、どのような学びを通して変わっていくのかという「変容」のプロセスに焦点が当てられました。日々の暮らしの中で繰り返し用いられ、迷いや失敗を含む経験を通して身体に馴染んでいく「知恵」の本質が、教育やケアの実践例とともに論じられました。まず、学びの原点は理屈による理解に先立つ「真似る」ことにあり、他者の生き方への憧れや感動が心と身体を動かす出発点になると指摘しました。また、学びの場は学校に限定されず、家庭や地域、仕事の現場など、人と人との関係性の中に息づいていると述べました。さらに、自身の専門である出産やケアの研究を背景に、「権威的知識」が当事者の身体感覚や経験を見えにくくしてきた側面を批判的に考察しました。ここで問われているのは知識の量ではなく、どの知識が正しいとされ、どの声や経験が信用されてきたのかという点であると強調しました。最後に、教育やケアにおいて不可欠なのは、正しさや効率を一方的に示すことではなく、安心できる場の中で、相手を否定せずに受け止め、共感的な関係を築くことであると結びました。知識が知恵へと変わり、生き方や他者との関係を深めていくプロセスの重要性を問い直す発表となりました。

 
PART:02

 第二部では、内田次長、丸山主事、松本専門研究員によるパネルトークが行われました。第一部の発表内容を踏まえ、「気づき」をどのように学びへとつなげていくかについて議論が深められました。トークでは、人は目の前にあることでも意外に気づけない場合があること、また、自分を「運がよい」と捉える姿勢や、出来事を前向きに受け止める態度が、気づきの感度を高める可能性があることが示されました。また、気づきをそのままにせず、行動へ移すことの大切さも確認されました。完璧を目指すのではなく、今できる小さな一歩を踏み出すことが、学びを深める契機となります。さらに、武道や芸道における「型」や「守破離」の考え方を手がかりに、学びは単なる模倣ではなく、自分の癖やずれに気づき、実践を通して身につけていく過程であることが論じられました。そのほか、科学的根拠やエビデンスを唯一の正解として扱うのではなく、個々の状況や文脈の中でどう生かすかが大切であること、子育てや教育においては、成長の過程をよく見守りながら必要なときに関わる「積極的に待つ」姿勢が重要であることも話し合われました。最後に、『万人幸福の栞』「万象我師」の一節として、「書籍は、これを暗記していたところで、それはインデックスを覚えているに過ぎぬ。学問は信じ過ぎるも愚であり、けいべつするも馬鹿である」という言葉が紹介されました。その上で、本研究フォーラムで伝えられた言葉による知識を日常生活へ生かし、実践を通してぜひ知恵としていただきたいと結ばれました。