倫理研究所

活動報告
2018.5.1

第22回「しきなみ賞・しきなみ新人賞」入選速報

 第22回「しきなみ賞・しきなみ新人賞」には、しきなみ賞336名、しきなみ新人賞149名、合計485名の応募がありました。 しきなみ選者による予選を経て、4月に開催された最終選考会において、「しきなみ賞」は「最優秀賞」(2名)、「優秀賞」(3名)、「佳作」(15名)、「しきなみ新人賞」は「最優秀賞」(1名)、「優秀賞」(2名)、「佳作」(11名)の入賞作品が決定いたしました。

 

「しきなみ賞・しきなみ新人賞」とは・・・

 しきなみ短歌会員を対象とし、「しきなみ賞」「しきなみ新人賞」の2部門からなる賞。 作歌の練磨・研鑽に努力している会員に対して、評価の機会を提供することにより個々の会員の作歌力の向上に資するとともに、若い才能の発掘・育成を目的としています。


 

し き な み 賞

 

◆◆◆ 最優秀賞 2名 ◆◆◆

 

「ひきこもる孫」石渡貫一郎(千葉・郡本・真砂集)

ひきこもる女孫のこころ開かむと吾は鬼にも仏にもなる
悪態を浴びる日あるも本心にあらずと孫の迷宮を思ふ
不登校の孫の耳にもわたりくる中学校の授業のチャイム
学校へ向かふとみるや立ち止まり俯き戻る女孫いぢらし
病む孫と小犬と散歩の野辺に坐し語りて聞かす命のかがやき

 

「妻恋うた」大島安徳(鹿児島・龍郷・群蛍集)

古文庫にむかしむかしの妻の文ほのかにさわぐ老いのわが血か
思い出は満ち潮のごと押し寄せて亡き妻われをひたひたと抱く
午前二時ひとり起き出で胸熱し逝きにし妻の歌集読みつつ
亡き妻と夢路に逢いて詠み合えばいつしか夜明けの鈴虫の啼く
釣り好きの妻が遺しし小舟には白鳥止まりて海見つめおり

 

 

 

◆◆◆ 優秀賞 3名 ◆◆◆

 

「にわか雨」佐々木尚子(岩手・北上法人・飛雲集)

 にわか雨人も車も蟻さえも慌てふためき家路を急ぐ
熱き鉄にバケツの水を打ぶちまけたごとく大地はジュワッと唸る
一匹の蟻は必死にしがみつく雨水流れるオオバコの葉に
真夏日の雨の匂いは咽せるよう渇いた大地は息吹き返す
来た時とおんなじように突然に雨雲は去りのぞく青空

 

「生家」村重千代美(北海道・札幌東・飛雲集)

六十年父がねじ巻き時とき刻きざむ遠き生家の柱時計よ
父が逝き母も施設の人となり暮らしの音が消えている冬
ねじ巻けば柱時計の音だけが我を迎えて変わらず響く
父母のつましき暮らし偲ばせる古びた茶わんいとおしく洗う
残したい生家の壁のしみの跡父が居るよな母が居るよな

 

「夫とふたりで」立花壽子(佐賀・与賀町・白光集)

学らんの似合う貴方にときめきてあれから五十年白髪もいいねぇ
子ら育て商守りひたぶるに鴛鴦のごと夫と歩み来
丘の上の父の御墓に向かうとき手を引きくれる夫の頼もし
「おいしい」と夫の言いくれ身に余る幸せ感ず貴い朝餉に
秋の夜は夫とふたりで浮き浮きと短歌談議に花咲かせたり

 

 

 

◆◆◆ 佳作 15名 ◆◆◆

 

  • わが祖父の歌会始の入選歌譜をつけ吟じ感涙むせぶ/山本高敬(秋田・秋田北・飛雲集)
  • 馴染めない馴染まなくてはと新天地震災七年恋うるふるさと/木村伴子(宮城・石巻・白光集)
  • 「歌うときすてきな歌は虹色」と璃空は音にも色あるを言う/大場麗子(宮城・石巻・真砂集)
  • 棒のよな動かぬ足で一時間ラストの十キロ思い出せない/岡野啓(埼玉・北与野・飛雲集)
  • 「お母さん長らくお待たせしました」と四十路の娘結婚を告ぐ/島田悦子(埼玉・忍・飛雲集)
  • 小さき手にわれの指先にぎりしむいのち継ぐ児を確かに抱く/大場ヤエ(千葉・酒々井・群蛍集)
  • 庭にたつ太き桜はわが家の歴史見届け今伐られゆく/大島増美(東京・鹿本・真砂集)
  • 半纏に袖通す折偲ばるる母の匂いと東北なまり/平井りつ(東京・掘切・飛雲集)
  • 「嵯峨菊やねぇ」とふうわり京なまり卓の二輪に宿るやすらぎ/青山惠津子(神奈川・登戸・真砂集)
  • 「わからぬ」とつぶやく夫にすべもなく手を握りしめ頭を垂れる/野村タツ子(愛知・春日井東・群蛍集)
  • 側彎の娘は気丈に「心まで曲がってないよ」と笑顔でかえす/阪東優子(長崎・川棚・飛雲集)
  • ガサガサの桜の幹は陽を吸いて漁師の祖父の手に触るるごと/本多陽子(熊本・長嶺・群蛍集)
  • 旗かかげ展示自転車磨きかけ息子二人は客を待ちおり/岡﨑五穂(熊本・出仲間・真砂集)
  • 亡き母に「茶を出さんか」と呼ぶ父は母の旅立時々忘る/増馬信子(熊本・菊水・真砂集)
  • 指先に願いを込めて一つずつひねり落として大根種蒔く/森田加代子(熊本・松橋・飛雲集)

 


 

し き な み 新 人 賞

 

◆◆◆ 最優秀賞 1名 ◆◆◆

 

「ポンちゃん」山下まつ子(鹿児島・西伊敷・青泉集)

癌になり今しか詠めぬうたがある生れて止まない五七五七七
癌のこと親しみ込めてポンちゃんと呼べば明るく乗りこえられる
この夏の癌もドラマのひとつなり人生劇場私が主役
初対面気が合いそうな担当医信じていくと心に決める
待ち遠し孫と参加の短歌会となりあう席うれしさ二倍

 

 

 

◆◆◆ 優秀賞 2名 ◆◆◆

 

「小さな我が子」宮岡友紀(東京・大岡山・青泉集)

抱きしめてとけあう温度冬の部屋おなかの外でもつながってるね
北風に揺れる真白な肌着たち覚えていたいこの小ささを
真綿降る白き小路にくり出せどこわごわびっくり初めての雪
バイバイを覚えて笑顔小さな手いつ知るのだろう別れの意味を
ひとつずつ覚える言葉愛らしく笑顔の魔法見習わなきゃね

 

「てぃんさぐぬ花」金城周子(沖縄・具志川・青泉集)

ご臨終空しく響く医師の声全ての機械は一直線に
臨終の母の手握り残された温もり我の手に閉じ込める
お父さん母さん逝ったよ迎えてね化粧施し父に託さん
母逝きて生家の庭の仏桑華揺れて儚げ我の心も
満月に母の笑顔を映し見て子守歌聞くてぃんさぐぬ花

 

 

◆◆◆ 佳作 11名 ◆◆◆

 

  • 滝壺に合掌のまま打たれれば水容赦なく弱さ揺さぶる/日下修(宮城・宮城法人・青泉集)
  • 早春の南紀白浜白い砂貴方との旅妻になれた日/渡邉雪子(福島・福島中央・青泉集)
  • ましろなる秋蚕は揺れたり蔟舎の月華にまるく糸を吐きつつ/岸秀俊(茨城・結城・青泉集)
  • 風邪ひくな酒はひかえよ無理するな小言のように繰り返す母/平石和彦(茨城・結城・青泉集)
  • 知るほどに怖さがわかる我が病心切り替えより良く生きる/羽場光子(長野・飯田・青泉集)
  • 「またの世があればお前を探すから」其のふたつきめ君天国へ/川崎澄(東京・深川・青泉集)
  • ここからはあなたの足で進む道祈りて見送る受験日の朝/柏木満美(神奈川・都筑区・青泉集)
  • 全経文暗誦自慢の母なれど飛ばしたかなと我の顔見る/安田さち子(神奈川・登戸・青泉集)
  • 年老いて同居を願う子や孫によろこぶ心迷いの心/髙取君枝(福岡・国分・青泉集)
  • 障害の人との結婚決めしわれ親不孝とて覚悟で告げき/戸髙千惠子(大分・佐伯中央・青泉集)
  • きびの葉がざわざわ揺れる畑中で暫し休みて葉音楽しむ/菅間雅子(沖縄・平良・青泉集)