純粋倫理の研究ならびに
倫理文化に関する
専門研究の成果を
広く公開・発信するために、
毎年「倫理研究フォーラム」を開催し、
発表しています。
同フォーラムでは、研究発表に続いて
研究者によるパネルトークを行ない、
発表内容について考察しながら、
分りやすく解説しています。
2026年3月15日(日)神戸国際会議場にて開催しました。テーマは「確信を生きる―不安を払拭して、希望あふれる未来へ―」。参加者183名。
はじめに、内田智士次長が登壇し、本フォーラムの趣旨と全体テーマの背景について説明しました。同じ価格でも状況によって高く感じたり安く感じたりする事例や、同じ色でも周囲の色によって見え方が変わる例を示し、人間は自ら確信を持って判断しているようで、実際には環境や状況の影響を大きく受けていると指摘しました。最後に「では、どのようにすれば確信を持って生きられるのか。その方策を皆さんとともに考える時間にしたい」と述べ、第一部の研究発表へとつなげました。

第一部では、倫理文化研究センターの平良直専門研究員、高橋徹専門研究員がそれぞれ研究発表を行ないました。平良専門研究員の発表テーマは「動じない生き方はいかにして可能か」。人は本来、他者の評価や失敗への不安によって心が揺れ動く存在であり、「動じてしまう」こと自体が人間の自然な姿であると述べた上で、夏目漱石『こころ』の事例を通じて、内面の葛藤が人の行動を縛ることを示し、「動じない生き方」は単なる技術ではなく、心の在り方の問題であると論じました。さらに、宗教的達人に見られるような強い確信は、人生観を根本から変える宗教経験に支えられていると説明しつつも、信仰そのものを勧めるのではなく、何を拠り所として生きるかという姿勢の重要性を示しました。また、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を例に、身近な他者を思いやり、利他的に生きようとする姿に「動じない生き方」の具体像があると述べました。最後に、人は不安や動揺を抱える存在でありながら、他者を思いやる「美しさ」を持っているとし、その価値を確信して生きることこそが、動じない生き方の要点であるとまとめました。
続いて高橋徹専門研究員が登壇し「信じる力の回復――クリーン&シンプルに」と題して発表を行ないました。高橋専門研究員は、「信じる力」が人生を方向づける基盤であるとしたうえで、現代においてはその力が弱まっている点に着目しました。信じることとは単なる思い込みではなく、生命全体に関わる深い同調の感覚であり、本来は人間に備わっているものであると位置づけました。発表ではまず、幼少期には直感的に物事を受け取り、自然に「信じる」ことができていたにもかかわらず、成長の過程で不安や疑念が積み重なり、その力が次第に失われていく過程が指摘されました。特に、周囲の評価や合理性を重視する社会環境の中で、自分自身の感覚や内面への信頼が損なわれていく構造が示されました。その結果、人は本来持っている自己信頼を発揮できず、不安や迷いに振り回されやすくなると述べられました。こうした状況を乗り越えるためには、複雑な理論や外的基準に依存するのではなく、自らの内面に立ち返り、シンプルに「信じる」姿勢を取り戻すことが重要であると強調されました。最後に、信じる力を回復することは、新たな行動や習慣を生み出し、人生全体を変えていく原動力となるとし、静かで確かな信念を育てていくことの必要性が示されました。
第二部では、内田智士次長、平良直専門研究員、高橋専門研究員によるパネルトークが行なわれました。第一部の発表内容を踏まえ、「信じる力」や「動じない生き方」を日常の中でどのように捉え、実践していくかについて議論が深められました。トークではまず、自分を信じることの重要性が確認される一方で、人間の認識は必ずしも確かなものではなく、錯覚の例などを通じて、自らの判断を過信しすぎることへの注意も示されました。また、現代人に見られる自己不信の具体例にも触れながら、自己信頼をどのように回復していくかが一つの論点となりました。さらに、社会心理学者バリー・シュワルツの「最大化」と「満足化」の考え方が紹介され、常に最善を求め続けることがかえって不安や後悔を生み出す可能性があること、一定の基準で満足する姿勢の重要性が指摘されました。加えて、ヴィクトール・フランクルの思想を手がかりに、困難や絶望の中にあっても人生の意味を見出す視点が提示されました。自分を待つ誰かの存在や、他者とのつながりの中に責任を見出すことが、人を支える力となることが共有されました。また、苦難は単なる否定的な出来事ではなく、自らの在り方を見直す契機として捉えうることも論じられました。
最後に内田次長が、倫理運動創始者・丸山敏雄の短歌「これのよに ならざるはなし たまきはる 命を越えて なにならざらむ」(この世に成らないことなど無い。命を越えて何が成らないことがあろうか)に言及し、自分の代で完結させようとするのではなく、未来へとつながる営みとして生きることの重要性を示しました。そして「未来に生きる人々を信頼しつながる営みとして日々を積み重ねていくことが大切である」と結び、会場全体に前向きなメッセージを投げかけ終了しました。